“ハコ”からみる事業再構築

こんにちは。電機業界に勤務している、五味と申します。

前回のブログにて、事業再構築補助金に関連して、その要件や具体的な企業の事例を書かせて頂きました。だいぶ時間が空いてしまいましたが、今回は、ハコの視点から事業再構築補助金について書かせて頂きます。

目次

事業再構築補助金とは(前回のおさらい)

事業再構築補助金とは、経済産業省の肝いり施策であり、過去にない1兆円規模に及ぶ予算が割り当てられている旨を前回お伝えさせえて頂きました。

しかしながら、“事業再構築”の名前が示す通り、この補助金は今までとは異なる未知なる戦場で戦うことを求めるものであるため、適用ハードルが高い補助金です。

アンゾフの成長マトリクスでは、消費者・顧客の新規性と製品・サービスの新規性の二つの軸で成長戦略を定義しています。

アンゾフの成長マトリクス

【出典:みんブラ】

今までの経済産業省の補助金は既存事業の販促を目的とした小規模事業者持続化補助金や、革新的製品サービスの改善を促すものづくり補助金など、市場浸透戦略を求めたものが多い印象でした。もちろん、これまでの補助金の事業のなかにも革新的な事業を行うにあたり、新たな市場に活路を見出すものもありましたが、事業再構築補助金では市場浸透戦略を行うことを許さず、明確に市場開拓・製品開発戦略・多角化戦略を取ることを求めています

既存事業・既存市場から離れるほど、自社にとって未知の世界に飛び込むことになります。当然、習熟度の低い業界に飛び込む必要がありますので、その業界の先達と比較して知識やノウハウが少なく、リスクが高いチャレンジであるといえます。

常識の変化

では、なぜ経済産業省はそのようなハードルが高いことを求めるのでしょうか?

私は、新型コロナウィルスが今までの常識を破壊し、それまでの戦場では生き抜くことができない、厳しい競争の時代に入ったことを事業者に理解してほしいからではないかと考えております。その観点をハコの視点で考えます

今までは、多くの事業において、一つの“ハコ”に集まってベネフィットを享受するビジネスモデルが重要な要素を占めていましたい。

なぜなら、ハコに人を集めることで同一もしくは同種のサービスを多数のお客様に届けることで、コストを抑えながら収益を上げることができる、規模の経済性を活かせるモデルだからです。

例えば、コンサートはコンサート会場というハコに多くの人を集め、そこに集まった人たちがアーティストの提供するコンテンツを楽しむビジネスモデルです。

【出典:pixabay】

ハコにを人を集めて運ぶのが鉄道や飛行機などの輸送業、ハコで飲食を提供するのが飲食店、と考えるといかに多くのビジネスにハコが関わってきたかがわかります。

しかし、コロナはハコに人が集まることを許しませんでした。

ヒトとヒトとのつながりが感染という負の影響を伝播させてしまうことからこれまでのビジネスモデルは破壊されてしまいました。

また、ハコに関連する事業はハコの運営側だけの問題ではありません。例えば、ハコにコンテンツを提供する食材の生産者は販路を失い、ハコをプロモーションする印刷事業者は印刷機械を失いました。ハコに参加するための手段を提供する予約サイトもまた大きな影響を受けるなど、物理的な“モノ”を持たない企業にも大きな影響が出ています。

このように“ハコ”を中心としたビジネスモデル経済圏が苦境を迎える中、新たなビジネスへ転換する勇気のある企業は必ずしも多くはありません。それでは、 “ゆでガエル※”になってしまいます。

【出典:ダ鳥獣ギ画】

ゆでガエル理論

1950~70年代に活躍したアメリカの思想家で文化人類学者、精神医学者のグレゴリー・ベイトソンが提唱した理論。カエルを熱湯の中に入れると驚いて飛び出しますが、常温の水に入れて徐々に熱すると、カエルはその温度変化に慣れていき、生命の危機と気づかないうちにゆであがって死んでしまうという話です。実は作り話で、科学的には誤りです(笑)。

ゆでガエル現象を防ぐための、資金面での後押しとしてこの補助金があるのではないでしょうか?コロナ禍の厳しい状況下でこれだけの補助金が付く背景にそのようなことを考えてしまいます。

事業再構築補助金の可能性

では、事業再構築補助金を使うことで、どのような可能性があるのでしょうか。

まず、前回お伝えした事業者様の事例を見てみます。

ここで注目したい観点は、ハコをどのように使うかです。

例えば、映画館などの形態はハコでサービスを利用する都度課金する、買い切りモデルです。これを便宜上、フローモデルといいます。フローモデルでは、単価*回数で売上が決まります。そのため、単価と共に再来店を促す施策や一日に何回お客さんがサービスを利用したかを示す回転率が重要となります。

一方、学習塾などの形態は、お客様と一回契約したらお客様の利用回数によらず売上をあげることができます。いわゆるサブスク(サブスクリプション型サービス)と同じですね。

こちらを便宜上、ストックモデルといいます。ストックモデルでは、単価*人数(アカウント数)のビジネスモデルです。そのため、単価とともに、会員の誘客と定着が大事になります。

この観点で、事業再構築前後の比較をしてみましょう。

飲食店

前回、日本料理店がラーメン屋さんに業態転換したお話を前回ご紹介させて頂きました。

この話はハコの話で言えば、転換前も転換後もハコに人を集めて利用の都度お金を頂くフローモデル、という観点では変わりません。しかし、そのハコの使い方が変わっています。

単価×回転率

日本料理店は、アルコールを提供し、お客様にゆっくりと料理やお酒を楽しんでもらうビジネスモデルです。そのため、お客様が払うお金(客単価)は高いものの、一日に何人のお客様が来店するかを示す、回転率は低いものとなります。また、一人で料理やお酒を楽しむ、というよりは複数の人が料理を楽しむものであるため、長時間の滞在が前提となり、3密(密閉・密集・密接)の状態に近い状態となってしまいます。

しかし、ラーメン屋さんは、基本的には少人数の人間が短時間の滞在でラーメンを楽しむモデルです。3密を比較的回避しやすいモデルです。

単価×時間帯

また、日本料理店は、アルコールと共に料理を提供できる夜と、ランチ需要の取り合いになる昼では大きく客単価が違います。夜の客単価は3千円を超えますが、ランチではせいぜい千円程度の客単価となります。

それに対し、ラーメン店は昼でも夜でも客単価は変わらず、終日営業が可能です。そのため、、緊急事態宣言やまんえん防止法によって営業時間が限られる日本料理店に対し、営業時間が高いことから安定的な収益が期待できます。

印刷事業者

前回、印刷事業者が紙製品製造業に転換する話をさせて頂きました。こちらの事業者は直接ハコを起点とするビジネスではないのですが、その販売先がハコを起点とするイベント事業者や飲食事業者であったことから大きな打撃を受けました。また、印刷事業者は発注元のニーズの変動に大きく影響を受けております。

そのため、自ら販売することができる紙製品事業へ展開しました。

従って、こちらのビジネスは、ハコ関連事業者から受注を受ける形態から別のハコ関連事業者に自ら販売士に行くスタイルへの転換です。

これまではフロービジネスを営む他社のハコの動向に影響を受ける形態でしたが、今後は、主体的に老人施設などのストック型ビジネスモデルのハコに売込をかける業態に転換します。

このハコの利用者は、定常的な利用を前提としたストックモデルです。従って、一度営業に成功すれば、継続的にリピートを獲得することが期待できます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

全ての事例に当てはまるわけではありませんが、ハコの視点で事業再構築を見てみるのも面白いと思います。

フレームワークをヒントに、ビジネスを俯瞰的に見ることでいろいろな気づきがありますので、是非とも一度試されることをお勧めします。


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執筆者

五味 義也|中小企業診断士・MBA
Gomi Yoshiya

大手電機メーカーにて、経理業務を軸に海外の経理システム構築プロジェクトなどに従事。取材の学校7期生として、取材4件・執筆記事6件などに携わる。家族構成は妻と子供2人。家庭と仕事の両立に四苦八苦している。


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