品質問題とコミュニケーション

製造業で働くよっしです。少し長くなりましたが、今回は近頃話題となっている、大手メーカーでの品質問題についてお話しさせていただきます。

近年、数多くの品質不適合の問題が巷を騒がせています。

21年6月には三菱電機が、11月には日立製作所の子会社である日立金属が品質不適合を起こしていたことを公表しています。こうした企業では、監査に合格するために検査記録の「改ざん」を行っていたとのことです。

その一方で、EVメーカーのテスラやスマートフォンメーカーのAppleやSamsungは、完成版とは言えないβ版の商品を市場に提供し、市場からの声を受けてソフトウエアを改善することで喜ばれています。

ハードウエア中心の製造事業者が品質不適合で厳しく追及される一方、完成品とは言えない製品を市場に提供し、改善を図っている企業が好評を得ています。

この差の原因はコミュニケーションから生まれるのでは、と考え、考察してみました。

目次

品質不適合とは

まず、品質不適合とは何を意味するのでしょうか?

言葉を聞くと、ものすごく悪いことをやっているように思います。

言葉の定義は、「規定要求事項を満たしていないこと」を意味し、「部品などを加工し、検査を行った際、規格等の基準を満たしていないもの」となります。

・・・まだ難しいですね。

規格とは、「標準としての定め。特に工業製品の、寸法・形・質などに定めた標準」となります。

日本の規格は、一般に日本規格協会(JSA)が定める日本産業規格(JIS=Japanese Industrial Standards、以下JIS)に従っています。

https://www.jisc.go.jp/newjis/newjismknews.html

例えば、トイレットペーパーのサイズは日本のJIS規格によって標準化されています。114mmと決められています。真ん中の空洞部分の直径は38mmのものが主流です。直径はロールの状態で120mm以下と定められています。

この標準化により、日常生活でどこのメーカーの商品を買ってもホルダーに取りつけることができ、困ることなく使用することができるのです。

出典:JSAグループ(https://www.jsa.or.jp/whats_jis/whats_jis_index/

JIS規格との整合

では、先に述べた企業は、こうしたJIS規格に違反していた、ということなのでしょうか?

もちろん、そうした事例もありますが、全ての事例がJIS規格に違反していた、というわけではありません。というのも、JIS規格は長い間ずっと変わらないのではなく、時代の流れなどによって変わっており、

・引用規格が現存していない、最新版でない

・用語の定義が古い

・別の規格との整合

等の理由でたびたび変更されています。

しかし、こうした変更を理由に不要となった検査や工程が発生しても、その情報が顧客の窓口となる営業部門に伝わっていないなどの理由から、対外的には検査工程が見直されていないことが多々あります。

こうした場合に、現場が独断で「検査は不要」と判断したりすると、顧客の要求を満たせないことになってしまいます。

JIS以外の品質規格

三菱電機の調査報告書の中には、JISでは要求されていないけれども、お客様に説明していない、というものも混ざっていました。

同社の電磁開閉器という製品は、アメリカで実質的に必須とされている、Underwriters Laboratories Inc.が認証したUL認証品として製造している、はずでしたが、規格に合わない部品を使って製造していたようです。

https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/products/lvd/lvsw/items/lvms/index.html

しかし、この製品が国内向けであれば国内で使う分にはUL認証は不要です。そのため、UL認証に適合していないからといって販売できない、ということはなく、同社の調査報告書でもただちに法令違反に該当することはないと記載されています。

https://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2021/1001-b.html

一方で、UL認証品と偽って顧客に販売していた、という事実は厳しく批判されるべきです。品質を信頼して買っていた顧客の信頼を裏切ったことは決して許されるべきではありません。

しかし、この場合、極論すると、技術の問題というより、コミュニケーションの問題といえるのではないでしょうか。

品質不適合発生時におけるコミュニケーション

JIS規格に適合しなければ品質上の問題ですが、上記の事例であれば、「JIS規格には適合しており、品質上の問題はないが、UL規格には適合できていない」ことが発覚した時点で顧客にお詫びし、しかるべき対応を取ればよかったはずです。

これは、JIS規格に合致していなかった場合も同様です。問題発覚時に顧客に報告し、真摯に対応すれば問題が大きくなることもなかったはずです。

では、なぜこのようなコミュニケーションが取れなかったのでしょうか?

私は、現場で確認した問題が営業部門を経由して外部の顧客に伝わるまでに、3つのハードルがあると考えられます。

現場内の関係性

問題が判明したことを発信することはだれもが嫌がることです。そのため、悪材料が発覚した場合、外に出る前に現場の中で握りつぶされるリスクがあります。

このリスクを防ぐためには、上司と部下、同僚同士がお互いに言い合える関係が必要です。これができなければ、自分や所属組織が不利な立場に追いやられるのでは?という懸念が払しょくできず、正しい情報を発信することができなくなります。

現場と営業部門間の関係性

現場で問題について自由に議論できる土俵があったとしても、営業部門と共有できる信頼関係が構築できていないと、外部との窓口になる営業部門に発信することはできません。

ここには、もしかしたら部門間のプライドなどといった心理的な要素も絡んでくるかもしれません。

社内外の組織間関係

組織内の2つのハードルを越えて、不適合情報が営業部門に上がってきても、何らかの事情でその情報を外に発信しなければ、やはり顧客はその事実を把握することはできません。

この背景には、営業部門と外部との組織間関係も影響しそうです。外部ともきちんとお互いが主張し、受け入れるという関係性ができないと、こうした情報は発信しづらくなります。

また、内部監査の機能不全といった声もありますが、こうしたコミュニケーションが適切にとれる信頼関係がなければ、外部の監査役が防ぐことは困難であり、対策も後手に回ることになります。

IT業界の品質

それに対し、先に挙げたテスラやAppleはハードウエアメーカーでありながら、ソフトウエアに依存する要素が多い企業です。

しかし、ソフトウエアの品質を明確に定義するものはなく、品質はバグの分析やレビューの実施によって、不適合を発見する形で品質改善を図っています。

こうした企業がうまいのは、改善そのものを「バージョンアップ」と定義し、売り物にしていることです。

ユーザーもあらかじめβ版であることを理解しておけば、「不具合があっても自己責任」となります。

これは、製品のバージョンアップによるユーザーとのコミュニケーション戦略であると評価できます。

こうした活動には莫大かつ継続的な投資を求められますが、一度世に出した製品に不具合があっても、ソフトウエアを改善し続けることで顧客との継続的な“コミュニケーション”をとり続けることができているのです。

考察

いかがでしたでしょうか。

私は、一連の品質問題を見るに、コミュニケーションの取り方が、問題発生時のインパクトを分ける分水嶺になっているように感じられました。

そのコミュニケーションの相手は、社内、顧客、メディアなど様々な相手が想定されますが、こうしたコミュニケーションは縦割り組織が多かった、昔ながらの日本企業が不得意としてきた領域ではないかと思います。

「コミュニケーションをきちんととれるようになること」が実は品質不適合に対する最適な解の1つとなるのかもしれませんね。



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執筆者

五味 義也|中小企業診断士・MBA
Gomi Yoshiya

大手電機メーカーにて、経理業務を軸に海外の経理システム構築プロジェクトなどに従事。取材の学校7期生として、取材4件・執筆記事6件などに携わる。家族構成は妻と子供2人。家庭と仕事の両立に四苦八苦している。


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