電機メーカーで働く、よっしです。前回はSiriを活用したインプット術についてお話をさせて頂きました。
今回は、4月にプライベートタイムのほとんどをつぎ込む形となった事業再構築補助金についてお話しさせて頂きます。4月は事業再構築補助金で3社と関わり、学ぶことが多い1か月でした。
今回の内容は、中小企業診断士をはじめとして、一部の業界の人にとっては既知の情報も多いと思いますが、事業再構築補助金とは何なのか、そしてその先に何があるのか。今回学んだ情報も含めて書かせて頂きます。
事業再構築補助金とは
「生き残る種とは、最も強いものではない。 最も知的なものでもない。 それは、変化に最もよく適応したものである」
ダーウィンの有名な言葉ですが、この言葉が指すのは自然界だけのことではありません。コロナショックが猛威を振るう2020年以降、今までの強みが弱みとなりうる厳しい環境を迎えています。こうした環境の変化から大きく影響を受ける業界では元の業態のままでは生きていくことが許されない状況も発生しています。座して待つゆでガエルは死んでしまうのです。
そうした環境の変化に適用するために、経済産業省が作った新たな補助金が事業再構築補助金です。
この新しい補助金は、令和2年度第3次補正予算において、1兆1,485億円という、いまだかつてない莫大な予算が計上されました。受給要件を満たし、採択されれば最高で1億円の補助金を受給することができます。
【出典:経済産業省】
どれぐらい大きいかというと、従来の中小企業向け主要補助金である、ものづくり補助金・持続化補助金・IT導入補助金を合わせて2,320億円ですので、その約5倍に当たります。
また、これらの補助金の上限額が最高で1千万円ですので、事業再構築補助金は一桁違う投資に対する補助金を受給することができることがわかります。いかに経済産業省が力を入れているかわかりますね。
【出典:経済産業省】
事業再構築補助金を受給するための条件
では、どのようなケースの場合、事業再構築補助金を受給できるのでしょうか?
先ほどの経済産業省の資料では2つの要件が書かれていました。これらについてみていきましょう。
①申請前の直近6カ⽉間のうち、任意の3カ⽉の合計売上⾼がコロナ以前の同3カ⽉の合計売上⾼と比較して10%以上減少している中⼩企業等。
今回の申請は、システムトラブルによって延長される前は2021年4月30日を期限としていました。従って、直近6か月とは2020年10月から2021年3月までの6か月間を指します。
この中で任意の3か月の売上高がコロナ依然と比較して10%以上減少とは、例えばこのようなケースです。この要件を満たすことが、今回の補助金受給の必要条件となります。
②⾃社の強みや経営資源(ヒト/モノ等)を活かしつつ、経済産業省が提示した「事業再構築指針に沿った事業計画を認定⽀援機関等と策定した中⼩企業等。
ここには複数の要件が書いてありますが、最も重要なところは、事業再構築指針に沿った事業計画を策定することです。事業再構築指針とは下記に示すものとなります。
【出典:経済産業省】
これらについて、詳しく説明していると、それだけで数十ページになりますので詳細は割愛しますが、簡単に言えば、事業を変えるリスクを冒し、未来に向けて行動する企業を応援するものといえます。
事業再構築の事例
では、どういった企業がその要件に合致するのでしょうか。私が関わった案件を事例として、簡単に紹介させて頂きます。
事例Ⅰ:飲食店
東京・大阪をはじめとした大都市の飲食店は、コロナ禍において時短要請や休業要請などの外部要因による影響を強く受けています。さらに緊急事態宣言が発令されると、飲食需要減少下の客単価工場の起爆剤となるアルコールの販売ができなくなります。
今回関わった事業者は、おしゃれで高単価な日本料理屋さんを営んでいました。この店は料理の味もさることながら、立地の良さときれいな空間が女性を中心に人気を博していました。しかし、コロナ禍で休業を余儀なくされたことから日本料理店で培ったノウハウを活かし、単価は低くても回転率の高いラーメン店への転身を図ることを決断します。
しかし、ラーメン店は全国で18000店も存在する群雄割拠の事業環境です。単純に挑んでも埋没してしまうのでは?という疑問を抱きながら支援をさせて頂きました。
しかし、ラーメンは、チェーン店を除けば、味、麺の種類、提供形態など、全てが異なります。意外と差別化の余地が大きいのです。例えば、同じ塩味でも、塩ラーメンと塩つけ麺では、ユーザーにとって全く別の食体験になります。
今回関わった事業者様は自分の取れるユニークなポジションに勝機を見出しました。
出店地域の同じラーメン店の中でレビューサイトの評価点数の高い店とコンセプトを比較し、他の店との違いを見出せる点を模索し、地域にはない、オンリーワンの差別化ポイントを探し出したのです。
このようにコンセプトを明確に打ち出すことができれば、一見してレッドオーシャンにしか見えないような業界にあっても、青い大海原が広がっていくことに気付かされる経験をさせて頂きました。
事例Ⅱ:印刷店
先に触れた飲食店の需要減に悩まされる事業者もまた存在します。例えば、販促のためにチラシの印刷を行う印刷事業者なども大きな影響を受けます。
なぜなら、印刷事業者の多くは印刷請負を生業とし、発注先の環境変化の影響を受けやすいからです。
こうした事業者は飲食の需要減が直撃するうえ、休業要請の協力金を受けることができません。従って、協力金を受給できる飲食店より一層厳しい状況下にあるといえます。
今回、関わった事業者様は、こうした外部環境に苦しむ状況から脱するため、印刷物を利用した独自のオリジナル製品を生み出し、販売しようとしています。
しかし、単に「印刷事業を経験しており、印刷技術があるから紙製品市場に進出すれば成功できる」などと考えても、新たな業界の先駆者には勝てません。
今回支援した事業者は、単に紙製品市場に進出するのではなく、ある団体との提携に基づいて付加価値をつけることで後発の立場なりの弱さを補完し、業界内に差別化されたポジショニングを確立しようとしています。
今回の支援は、既存の強みだけでは勝算は低くても、社外組織との連携によって差別化を果たし、勝率を高める戦略の重要性について学ぶ機会を頂きました。
まとめ
このように、事業再構築は、安住の地から抜け出して、あらたな領域に進出する試みです。しかし、元々の生業とする事業環境を脱し、新たな領域へ進出する試みであることからよくよく考え、差別化をしながら新たな業界に進出しないと、先行企業の牙城を崩せず、討ち死にしてしまいます。
そのためのポイントは、ポジショニングです。
普通に考えれば、経験も資本も勝る先行企業とガチンコで殴り合っても勝機は薄いと思われます。従って、先行企業とかち合わないポイントを探し出し、そこに勝機を見出して、業界内の一定のポジションを勝ち取ることを目指すべきだと考えています。
今回、紹介させて頂いた2社はいずれもこのビジョンを描くことができていました。事業再構築後の新たな事業領域にはリスクは避けられません。しかし、そのような状況下でも無事に航海を進めるためには適切なポジショニング戦略を描いておくことが不可欠です。
事業再構築を検討される方は多いと思います。しかし、リスクをとって進める新業態はできる限りリスクを少なくしたいものです。そのためにも、事業再構築後の自社の事業が他社と比較してどう差別化されるか、そしてその差別化要素はお客様に受け入れられるか、という観点でよくよく検討されることをお勧めします。
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執筆者
五味 義也|中小企業診断士・MBA
Gomi Yoshiya
大手電機メーカーにて、経理業務を軸に海外の経理システム構築プロジェクトなどに従事。取材の学校7期生として、取材4件・執筆記事6件などに携わる。家族構成は妻と子供2人。家庭と仕事の両立に四苦八苦している。
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